血は争えず
今年初めに他界した筆者の祖父は常々「この家は、ばあさんの縫い子で建ったようなもんだ」といって、実家の床柱を撫でていました。祖母は祖父に先立つこと18年。地元では、ちょっと名の知れた和裁士でした。祖母が現役の和裁士だったころは筆者も幼かったため、ことこまかな記憶があるわけではありませんが、3世代同居の狭い借家住まいでありながら、祖母が6畳間を一つ独占して使っていました。ちょうど今で言うところのSOHO在宅ワークのような感じですね。発注者は知り合いの呉服屋さんで、そこから祖母へ反物と要項を書いた紙が送られてきます。その後、電話で家紋がどうのとかなんちゃら返しがどうのとやり取りをして仕事に掛かり、だいたい2週間〜1カ月ぐらいで納品に出向いていました。仕立て代は現金払いで、筆者はその納品の日が何よりの楽しみでした。それは祖母が仕立て代の大半を銀行に入金した後、残りでミニカーを買ってもらえるからでした。祖父の法要の折、母に祖母の「在宅ワークぶり」を尋ねてみましたが、やはり納期間近になると、深夜に及ぶ作業になり、家族もだいぶ心配したそうです。祖母は「仕事あるだけ結構なこと」といってまるで取り合わなかったそうですが。 実は、この祖母の生き方を祖母の長女(筆者の叔母)が継いでいます。叔母は専門学校で裁縫を習い、現在は、洋の東西を問わず裁縫全般の在宅ワークを請け負ってます。元々は賃貸マンション住まいでしたが、「狭い」とのことで、空き家だった近所の一戸建てを借りて、主に2階を作業場として使っています。筆者宅でも洋服のサイズ直しなどを時折頼みにいくのですが、在宅ワークについて、「メリット、デメリット半々だわ」と断言します。「家にいながら仕事ってのは気分的にすごく楽。母親在宅ってのは子供も安心すると思うのよ。でもねー。主婦はね、家にいるとなにかと用事あんのよ。結局、納期前だと、徹夜仕事になっちゃう時もあるから、うーん、やっぱ長短半々だわー」。生活空間を主に1階に閉じこめ、2階は作業場と寝室として使っているのは空間の癒着と分離から出た妥協の産物ということでしょうか。現況と今後については「最近は中国に押されて、新規の仕立て仕事は激減。あっても単価低いわー」と嘆きつつ、「でも不況だと、持ってる洋服のリメイクとかリサイズ、バッグの修繕とかあるし、なにより仕事あるだけありがたい」とのこと。やはり血は争えないといいますか、祖母と叔母、母娘そろって同じようなことをいうのでちょっとびっくりました。みなさん、くれぐれも無理は禁物ですよ。
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